こんにちは。
情報科教員 兼 エンジニアの柴です。
前回のブログでエンジニアと中高一貫の教員のダブルワークについて書かせていただきました。

今回は「情報」という教科(以下、情報科)について書きたいと思います。

「情報」とは

まず、「情報」という教科が初めて必修となったのは1999年の学習指導要領の改定で「情報A」、「情報B」、「情報C」のどれか1科目以上の必修教科として設置されました。(実際に高校で指導が始まったのは2003年度から)
その後、2009年と2018年に改定が行われ現在の「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」という形になりました。
「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」は以下のような内容になっています。

必修科目の「情報Ⅰ」

情報モラル、知的財産権などの社会科的なものから表計算、プレゼンテーションを使ったコミュニケーションの内容に加え、デジタル化、ネットワークのしくみ、プログラミング、データベースなどの情報科学的な内容まで非常に広い範囲に渡ります。
ちなみに、難易度はITパスポートレベルで頑張れば基本情報技術者に手が届くレベルとなっています。ただし、これらの資格試験は範囲がさらに広いので追加で学習する範囲があります。

選択科目の「情報Ⅱ」

情報Ⅰの内容を発展させた内容となっており、統計学を用いたデータサイエンスや人工知能などを扱う教科です。多くの人が大学生レベルというイメージを持つ内容です。
難易度は基本情報技術者レベルというイメージです。一部の人は応用技術者に手が届くかもしれません。
この情報Ⅱまで実施している学校はあまり多くありません。

学習指導要領での情報科について

学習指導要領とその解説では情報科の目標は次のように定められています。

情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し,情報社会に主体的に参画するための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1) 情報と情報技術及びこれらを活用して問題を発見・解決する方法について理解を深め技能を習得するとともに,情報社会と人との関わりについての理解を深めるようにする。
(2) 様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う。
(3) 情報と情報技術を適切に活用するとともに,情報社会に主体的に参画する態度を養う。

【参考】
学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/20220324-mxt_kouhou02-000021499_1.pdf
学習指導要領解説(情報)
https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf

すごく漠然としているので分かりづらいですが、ざっくりと以下のようなことを目指しています。

(1)情報技術の知識を活用して困っていることを解決し、マナーや責任を自覚しよう
(2)科学的な分野でも情報技術を活用して新たな成果を生み出せるようになろう
(3)社会での情報技術に関する法律を守り、モラルを育てよう

現在社会人の方たちは会社に入ったあとに社員研修で学んだり、業務上必要に迫られて知識を付けた方が多いと思いますが、今の高校生は授業でそれらを学ぶことになっています。
(すべての高校生が内容を完璧にマスターしているという訳ではありませんが。。。)

実際の情報科の教科指導について

情報Ⅰは2単位となり、週に2時間の授業(年間で50時間程度)となっています。後述しますが、この時間数でプログラミングを含むすべての範囲をカバーしなければならないので非常にタイトな授業進度になります。
また、多くの学校では高校1年次で「情報Ⅰ」を実施しています。高校2年生になると英語や数学の授業を増やし、受験に向けた内容にシフトしていくためのようです。

プログラミングはPythonやJavaScriptを利用して授業を行っていることが多いようです。Pythonを使う場合はGoogle Colaboratoryを利用するとGoolge Classroomと連携できるので色々と便利です。
(以前、JavaScriptを利用して授業を行っていたときは、作成から提出までを行える仕組みを自作してサーバに設置していました)

様々な問題点

  • 授業時間の不足
    週に2時間の授業では授業で説明する内容を浅くしたり、共通テストに出そうな部分に注力しがちです。
    この方法で授業を進めると内容が断片化されやすくなり、生徒は共通テストのための授業というイメージを持ちやすくなるかもしれません。テストのための授業にならないように注意する必要があります。

例えば、共通テストではWebページの作成についての問題が出題されたとき、伝える内容やデザインの見やすさなどを問われることが多くなります。このような問題は一般常識で解けることが多く、授業でWebページの作成をあえて行う必要性は低くなります。
実際にWebページを作るにはテーマを決め、情報の収集、分析を行い、伝えたい内容の取捨選択を行う必要があります。これらの作業が情報科で求められている内容になりますが、共通テストの対策に傾倒することで、このような「考える」作業を授業で行わなくなることがあります。

  • プログラミングの学習には時間がかかる
    プログラミングを学習するときに避けて通れないのがアルゴリズムの理解です。逆にアルゴリズムを理解せずにプログラミングを学んでもプログラミングを学習したとは言えないと思います。
    ご存じの方も多いと思いますが、プログラミングにおけるアルゴリズムの理解には多くの時間がかかります。その時間を確保するだけでも苦労する現状となっています。

  • 授業を担当する教員の知識の不足
    これまでの内容を踏まえて、全ての内容を一定レベルまで指導するには相当な知識と工夫が必要となります。共通テスト科目になったことで点数化されるため、一定のレベルの授業内容にする必要があります。そのため、授業内容について困っている情報科教員が多いという話が聞こえてくる状況です。最近では教材を企画・販売する会社(教材開発会社)が教員をサポートする教材を一生懸命作成している状態です。

もともと情報科の教員には別の教科を教えながら情報科を担当している方が多くいます。これは、1999年の指導要領の改定で情報科が必修化されたとき、情報科の教員が不足していたことに起因します。別の教科を担当している先生が大学の通信課程などで情報科の教員免許を取得するケースが多く発生しました。このとき、大学の授業では専門性の高い技術的な内容ではなく、情報を適切に扱うための文系的な授業が多かったようです。現在の情報科の教科書の内容を指導するには、各教員が知識をブラッシュアップする必要がありますが、それを情報科の全教員が行えているかは疑問が残る部分です。

さいごに

ここまでお読みいただければお分かりになると思いますが、現場では必死の対応で情報科の指導を行っています。少しでも理解が広がってもらえれば幸いです。

【参考文献】
高等学校の教科「情報」のこれまでとこれから
https://www.ipsj.or.jp/magazine/9faeag0000005al5-att/6411peta.pdf
教科「情報」教員養成の変化と課題
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsise/36/3/36_360302/_pdf
高等学校情報科における教科担任の現状
https://uec.repo.nii.ac.jp/record/8535/files/IPSJ-TCE0302006.pdf