前置き
こんにちは。自称ミルディアのフォント警察、廣瀬です。前編ではフォントの基本や選び方の重要性、そして奥深いフォントの世界について解説しました。
前回の記事はこちらです。⇒フォントについて語ろう(前半)
後半では、ITエンジニアの視点から、具体的なフォントの選び方や、プログラミングに適したフォントなど、実践的な知識をご紹介します。
フォント選びの基礎知識
Webフォント or システムフォント
フォントの利用方法には、大きく分けてWebフォントとシステムフォントの2種類があります。
Webフォント: Webサーバー等に配置されたフォントデータを、Webサイト表示時に読み込む方式です。利点は、デバイス環境に依存せず、常に同じフォントを表示できること。欠点は、読み込み時間が発生する可能性があること。サイズが大きいフォントデータの場合はもたつきを感じさせてしまうかもしれません。

システムフォント: OSにインストールされたフォントを使用する方式です。利点は、高速に表示できることです。欠点は、環境によってインストールされていないフォントを指定すると、別のフォントで代替するため表示が異なる可能性があること。

書体の種類:明朝体、ゴシック体、セリフ体、サンセリフ体
書体は、フォントの基本的なデザインスタイルを指します。
明朝体: 筆文字をルーツとし、横線が細く、ハネやハライが特徴的な書体です。長文の可読性に優れています。日本語向けの書体です。
ゴシック体: 線の太さが均一で、視認性が高い書体です。見出しやタイトルに適しています。こちらも日本語向けの書体です。

セリフ体: 文字の端に「セリフ」と呼ばれる装飾が付いた書体です。明朝体と同様に、長文の可読性に優れています。こちらは英数字向けの書体なので日本語の文字はありません。
サンセリフ体: セリフのない書体です。ゴシック体と同様に、視認性が高いです。こちらも英数字向けの書体なので日本語の文字はありません。

文字幅:等幅フォント vs プロポーショナルフォント
書体と合わせてもう一つの重要な要素は文字幅です。文字幅は文字の横幅を指します。
等幅フォント: 全ての文字の横幅が同じフォントです。ソースコード等の表示に適しています。全角文字は半角文字2つ分と同じ幅であることが多いです。
プロポーショナルフォント: 文字ごとに横幅が異なるフォントです。自然な余白で表示されるので、一般的な文章の表示に適しています。

応用編:ユニバーサルデザイン(UD)フォント
ここからは少し応用編です。
近年注目されているのが、ユニバーサルデザイン(UD)フォントです。これは、年齢や障害の有無に関わらず、誰もが読みやすいように設計されたフォントです。
太さが均一、文字間の隙間を大き目に、濁点・半濁点を大きく、似た形の文字通しの形を変える、などなど既存のフォントと比べて細かい調整がされているので、多くの人にとって読みやすさの向上を実感できるとのこと。

引用:https://www.morisawa.co.jp/fonts/udfont/
些細な違いのように見えますが、これが結構影響があるようです。
奈良県生駒市が実施したUDフォントを用いた実験によると、UDフォントを採用することで小学生の長文読解の正答率が向上したそうです。
参考:https://fontswitch.jp/post/20425/
ちょっとした工夫によって、文字の読みづらさで取り残されない人を産まないようにする。まさにSDGsの時代にふさわしい設計思想のフォントです。
プログラミング用フォント
同じく応用編です。
この世界にはプログラミングに特化したフォントも存在します。
前述の等幅フォントであることに加えて、「0、o、O」 「9、q」 「1、I、i、j」など見た目が似ている文字をあえて特徴的に表現することで、凡ミスを防ぎ生産性の向上につながるように設計されています。

参考:https://github.com/yuru7/HackGen
おすすめのフォント
これらの基礎知識を踏まえて、個人的におすすめのフォントを無難編と趣味編に分けて紹介します。
おすすめフォント:無難編
まずは無難なフォントです。Mac端末で作成したPowerPointをデータで提供したものの、相手のWindows端末にはインストールされていないフォントが使われていたためデザインが総崩れ、みたいな悲劇はたまに見かけます。
それを避けるためにはどうすればよいか。基礎知識のおさらいです。同じように表示されてほしいなら、お互いの端末にインストール済のシステムフォントを指定してしまえばいいのです。
なお、GoogleスプレットシートなどはWeb上で表示されるのでWebフォントです。
日本語なら游ゴシック/游明朝
日本語ならここまでもたまに事例紹介で登場していた『游ゴシック、游明朝』が無難です。
Windowsではデフォルトのシステムフォントとして採用されていて、意識していなくても馴染み深いフォントだと思います。
Macの標準フォントである『ヒラギノ角ゴ』はとても綺麗で読みやすいフォントだと思うのですが、残念ながらWindowsには標準搭載されていません。

英字ならTimes New Roman/Arial
英字なら『Times New Roman/Arial』が間違いないでしょう。
こちらに関してはいずれもデファクトスタンダード扱い感があるので、迷ったら何も考えずにどちらかを選んでおけば良さそうです。
Arialの方は色々なところでデフォルトとして設定されていることも多いので、意識していなくてもよく見るフォントだと思います。

WebフォントならNoto Sans JP
Webフォントなら『Noto』シリーズの『Noto Sans JP』が良いでしょう。
『noto』シリーズは表示できない文字を無くすことを目標にGoogleとAdobeが開発しているフォントです。
『noto』とは『No Tofu(もう豆腐はいらない)』の略称。フォントが未対応の場合に表示される文字が豆腐に見えることから、その名がついたそうです。
参考:https://globalbydesign.com/2016/11/28/noto-as-in-no-tofu/
参考:https://x.com/googlejapan/status/1576346267730460675

おすすめフォント:趣味編
無難なフォントばかり紹介しても面白くないので、個人の趣味趣向も反映したオススメフォントも紹介します。
トリッキーな変なフォントを紹介するのは自重するのでちゃんと実用的で使いやすいと思います。
ドキュメント作成:BIZ UDゴシック/明朝
私が今一番好きなフォントは『BIZ UD』フォントです。
Mac標準フォントの『ヒラギノ』ファミリーの産みの親でもあるモリサワが開発したフォントで、Google Fontsで無償提供されています。
前編で紹介したユニバーサルデザインフォント(UDフォント)なので非常に読みやすく、無償で利用できるUDフォントはあまり多くないので助かっています。

プログラミング:PlemolJP
『PlemolJP』は私が愛用しているプログラミング用のフォントで、Visual Studio Codeなどのエディタやコンソールではこのフォントが適用されるようにしています。
IBM がリリースした『IBM Plex Sans JP』と『IBM Plex Mono』を組み合わせた合成フォントで、『PlemolJP}は『Plex Mono Language JP」の略称だそうです。
なんだかとても美味しそうで名前も素敵です。
プログラミングフォントの基本機能である類似文字の差別化はもちろん、一部記号を大きくして読みやすくしたり、全角スペースの可視化など、かゆいところに手が届くように微調整された最強のプログラミングフォントです。(個人の感想です)

PlemolJPの作者さんは他にも色々なプログラミングフォントを作っているので、自分のお気に入りを探してみてもいいかもしれません。
参考:https://github.com/yuru7/PlemolJP
注意:フォントも立派な著作物!ライセンスは要確認
いろいろと紹介してきましたが、一つだけ要注意です。
フォントも立派な著作物であり、すべての著作権はそのフォントの作者に帰属します。
有償のフォントはもちろんのこと、無償提供されているフォントにもライセンスが設定されています。
再配布禁止はもちろん、画像内に埋め込むのもNGなど、設定されているライセンスも様々です。使用するフォントのライセンスを確認し、利用許諾範囲を守って利用しましょう。
まとめ
フォント選びは、ITエンジニアの生産性、成果物の品質、そしてコミュニケーション能力に深く関わっています。
多種多様なフォントの中から、目的に合わせて最適なフォントを選び、快適なフォントライフを!